制作物語
美しさを追求する
TAKAYAMA LETTERPRESS
古い木製の什器の上に活版印刷の凸版や道具とともに並べられた商品。商品を手に取って喜んでくださるお客さまたち。「これは本当に自分たちの印刷工場から生まれた物なのだろうか?」と信じられないような想いがしました。創業から105年目の2015年に高山活版社のオリジナル商品として初めて誕生したのが TAKAYAMA LETTERPRESSです。
小箱を脇に抱えてやってくる
グラフィックデザイナーの小野友寛さんに初めてお会いしたのはたしか2014年の夏ごろ。白い布製のバッグを肩からさげ、作品を入れた小さな白い箱を携えて来社し、大切そうに作品を見せてくれました。特に多くを語るわけではありませんでしたが、言葉や仕草から彼の作品に対する愛情を感じたことを覚えています。
小野さんと私たちのご縁をつなげてくれたのは、スタイリスト兼プロデューサーのヨシダキミコさん。東京で大手の広告会社に勤務したのちに地元大分に戻り、広告や商品開発・販売促進などのプロデュースをしていた彼女が「活版印刷機になりたいくらい活版印刷が好きなんですよ」と小野さんを紹介してくれました。
ヨシダさんから「ぜひ小野くんと一緒に活版印刷でオリジナル商品をつくったらいい」というアドバイスをもらった当初は、「これまで受注生産でお客さまの印刷物をつくってきた私たちがオリジナル商品をつくり自ら売っていくなんて、そんなこと簡単にはできるわけがない」と思っていました。しかし多くの人たちの力を借りて、自分たちの活版印刷のブランドを形にし販路の開拓にまでにこぎつけることができたのです。
日常に活版を。
ブランドのコンセプトは「日常に活版を。」。長い歴史を持つ活版印刷の技術を日用品として生活の一部に取り入れ、日常で小さなことにも目を向け小さなよろこびを感じることを目指しました。展示会やイベントでは売り場に立つことでコンセプトや出来上がるまでの工程をお客さまへ丁寧に説明したり、お客さまからは商品についての感想を直接もらえたことで、自分たちの存在価値を感じることができました。
美しさを追求する
小野さんとのものづくりは初めて経験することばかりで、とにかく驚きの連続でした。彼は「せっかくならどこの印刷会社でもできることを超え、みんなが驚くようなことをかなえたい」と言い、印刷や仕上げ作業のほぼすべてに立ち会いました。具体的には活版印刷時にどれくらいの圧で押すのか、どんな刷り色にするのか。紙の種類やその表裏、伝票を綴じる針金の太さやテープの色や太さ、包装する際の糊しろの幅についてまでも、細かく打ち合わせと試作を重ねていきました。「ここまで時間と手間をかけてこだわってやるべきなのか?」と目的を見失いそうになったこともありましたが、商品が完成してみて初めてこれらひとつひとつはひとえに美しさを追求するためのデザインであり、それらが商品をつくりあげているのだと気づかされたのです。
日々の営みがよい創作につながる
これまでに小野さんとはTAKAYAMA LETTERPRESS以外にも様々な印刷物を一緒に制作してきました。カレンダー、DM、ポストカード、栞、ショップカード、貼り箱、CDの歌詞カード。それらは丁寧な暮らしを営む、小野さんの日々の暮らしから生まれています。「日々の選択のひとつひとつがものづくりにつながっていく。線一本を描くにしても違ってくる」と小野さんは言います。これから新たにご家族で拠点を構えようとしている小野さん。そこからどんな印刷物が生みだされていくのかとても楽しみです。