制作物語
誰も思いつかないことをやる
(株)島本食品 辛子明太子の島本 博多阪急店
900*400mmという巨大なサイズの手漉き和紙。今回のために特注でつくられたその紙に活版印刷を2色刷りするという、私たちにとってはいまだかつてない挑戦。それは甲斐部長の「できるかわからないけれどとにかくやってみよう」という一言から始まりました。社屋の2階に様々な道具が運び込まれ、部長と工場長の2人がかりで試し刷りが何日も続いたのです。
活版印刷で看板をつくる
トークイベント『Playful※1)』に息子さんと一緒に福岡から参加してくれていたのがカジワラブランディング株式会社の梶原道生さん。初めていただいたお問い合わせが「明太子屋を営むお客さまのデパートの売り場の壁面に飾る看板を作りたい。手漉き和紙にシルクスクリーン印刷ならできる所はあるが、どうしても型押しで濃い印象に仕上げたい。すでにオリジナルの手漉き和紙も作ったので、何とかできる方法はないか」というものでした。
しかし私たちがふだん使っている活版印刷機では900*400mmというサイズは大きすぎて印刷はできません。そもそもこれまでに見たことのないサイズの凸版を使って高価な手漉和紙に活版印刷をするということは、うまく刷り上がらない場合の負担を考えるとお互いにとってかなりリスクの高いチャレンジでした。
どうすればこの作品を形にできるのか?「やりたい」と言ってくれた梶原さんとお客さまのために、工作好きの少年のような一面を持つ会長も加わって作戦会議が始まり、まずは試し刷りをしてみることになりました。
印刷時のこと
どのようにして手漉き和紙に活版印刷をするのか?
それは手動の版画機を使って、実にアナログな方法で1枚ずつ手作業による試し刷りを繰り返し、活版印刷されたのです。その時の様子は印刷機が並んでいるいつもの印刷工場とは違い、以前にテレビで見た活版印刷の古い道具ばかりが並んだイタリアの小さな村にある古い印刷工房のようでした。
印象的だったのが「なんとか刷り上げたい」という思いで試行錯誤を繰り返す部長と工場長の真剣な表情のなかに、どこか少しだけ楽しそうな表情が垣間見えたこと。何より彼ら自身が作品ができあがるところを見てみたかったのです。
自分たちだからこそできたこと
そうして素材感のある柔らかい手漉きの和紙に凸版がくっきりと押された看板が無事に完成しました。お客様からは「とても満足しておりチャレンジしてよかった。看板を設置してから売り上げが増えた。活版印刷の存在感や手作り感が、ブランドの品質向上に貢献している」というとてもありがたい言葉をいただき、社員で喜び合いました。
自分たちについて「特別な機械や印刷技術があるわけではない」と常々話している部長ですが、珍しく「デジタルが主流の時代に他の印刷会社はこの方法は思いつかないだろう」と話していました。もしかしたら今回の印刷方法は私たちだからこそできたことかもしれません。
できるかわからないけれど、これまでの経験を生かしてとにかくやってみる。そうやって無事に印刷物ができあがり、お客様にも満足していただくことができた時の喜びは忘れがたいものがあります。